多くのカヤック設計において、カヤックに適したベニアの要件は以下のようなものがあります。
結論から言うと、これらの要件を総合的に判断すると、多少価格は高くなりますが、 海外のマリングレード合板を輸入している国内業者から購入を検討すべきです。
これは国産のベニアが海外のベニアに対して一般的に品質が劣っているということを 言っているのではありません。マリングレード合板が国内で生産されていないということです。 海外でもマリングレードの合板を製造しているところは非常に限られるそうです。
以下、要件について簡単に解説します。
カヤックなど船舶用ベニアとしては耐水性が重要になります。 私が参考にした文献では多くの場合、マリングレードの合板を必須としています。 BS1088という規格を推奨しています。
しかし、マリングレード(およびBS1088)という規格は国内産のベニアにはありません。
次に、国内で市販されているベニア(合板)には、いくつかの種類がありますが ベニアの各種規格は国内のJASが認定しています。 耐水性に関する規格として国内では、特類、1類、2類、3類という等級があります。 特に、特類、1類は耐水ベニアとして販売されていますが、特類と1類の間には、 耐水性能においてかなり差があります。
この性能差の大きな要因は薄い板材を積層する際の接着剤に依存しています。 GL工法の情報交換ページによると合板の規格によって、 接着剤の種類が以下のように違うです。
種別 | 接着剤 |
---|---|
特類 | フェノール樹脂 |
1類 | メラミン・ユリア共縮合樹脂 |
2類 | ユリア樹脂に充填材の小麦粉を加えたもの |
これらで使用されている接着剤により耐用年数が以下のように変化するとの記述があります。
使用接着剤 | イエローバーチ(キハダカンバ) | ダグラスファー(ベイマツ) |
---|---|---|
フェノール樹脂 | 30年 | 30年 |
メラミン樹脂 | 3年 | 10年 |
ユリア樹脂 | 1年 | 7年 |
特に、フェノール樹脂を用いることで樹種による性能差が埋まるというのも魅力的です。 これらの情報は、筆者がカヤック製造のための調査において合板の検討に 非常に参考させていただいたGL工法の情報交換ページに詳しく書かれています。
基本的にマリングレード合板は接着剤にフェノール樹脂を使用しています。
以上の点からカヤックやボートを作るには、 海外のマリングレードまたは国内の特類合板以上の耐水性能が必要ということになります。
カヤックやボートの船体は曲面となっています。 S&G工法などでは、曲面は、複数のパーツに切り分けたベニアをひねったり曲げたりすることで実現します。 当然、ベニアは、ひねられたりすることで応力が発生します。 このとき、抜けのあるベニアは簡単に折れてしまうことがあります。 (抜けとは、ベニアの表板と表板の間の板に製造工程で発生する隙間があることです。)
マリングレードはこれらの用途が明確であるためか、 抜けがあるという話はあまり聞いたことがありません。 (木目が気に入らなかったなどというのは聞きます
ところが、国内の一般的なベニアには抜けや穴が存在することが一般的です。 (通常、920mm x 1820mm 合板では1820mm側の辺をみると黒い抜けが見えます。) 国内のベニアは、やはり家具用、内装用などで使用されるものがほとんどで、 船舶用というよりは、建築用という位置づけになっているということでしょう。
国産のベニアを使用する場合は、木材屋さんで実際に材料を見て 抜けのないものを選ばせてもらう必要があります。
マリングレード合板のよいところの一つとして、一般の合板に比べて、 表面の板がかなり厚いというのがあります。 4mm厚のマリングレード合板であれば表と裏の板が、それぞれ1mm以上あることが一般的に思います。 残りの中板の部分は2mm以下です。
カヤックの製造では表面の研磨などがあるため、 化粧板のように表面に非常に薄い板を張っただけの合板では、 表面研磨で簡単になくなってしまいます。
国産のベニアを選択した場合であっても、後の行程で失敗しないために、 表面の板の厚みがなるべく厚いものを選択すべきです。
これはカヤックに限った話ですが、多くのカヤック設計やマニュアルには4mmベニアが指定されています。 実はこれが結構、厄介で、なかなか商品ラインナップに4mmというのがありません。 こればかりは、材木店で確認するしかないとおもいます。
マリングレード合板ではいくつか見つけましたが、国産の特類ベニアでは 会社によっては4mmを作ってないところがあります。
近所のホームセンターを数件回った程度では、特類については12mm以上しか見つかりませんでした。 (1類も少ないのですがこちらは探せば見つかります。)
運良くホームセンターで特類の4mm合板が見つかった場合は、 2000円〜という価格で手に入る可能性はあります。
しかし、一般的にマリングレード合板の価格は 1220mm x 2440mm x 4mmのもので6000円〜20000円と非常に高価です。
運良く近所の材木店でマリングレード合板が手に入ったという場合は別ですが、 ベニア板はサイズが大きいため輸送費は馬鹿になりません。
価格面においては国産でかつ近所のホームセンターや材木店で見つかった場合、 マリングレードは勝負になりません。
そんな中、最近、ロシアンバーチのマリングレード相当の合板を扱っているお店を見つけました。 どうやら送料も無料とのことで、私はかなりこの合板に惹かれています。
以上のことをまとめるとこんな感じになります。あくまでも私の調査した範囲でのお話です。 総合評価でやはりマリングレード合板を手に入れることを検討していただくことで お金で買えない安心感が得られるのではないかとおもいます。
マリングレード | 特類 | |
---|---|---|
耐水性 | ○ | ○ |
抜け | ○ | △ |
表面材 | ○ | △ |
4mm厚 | ○ | △ |
価格 | △ | ○ |